未成年の主張
V6は言わずと知れた人気アイドルグループだ。彼らが1997年10月から11年間メインキャスターを務めた「学校へ行こう!」という番組をご存じだろうか。なかでも「未成年の主張」はこの番組を代表するコーナーであった。私も――当時高校1年生だったが――その番組は欠かさず見ていたし、翌日の教室はいつもこの話題で持ち切りになるほど人気だった。
高校3年生の文化祭で「未成年の主張」をやろう!という声があがった。過去の文化祭でも幾度となくあがった企画だったが、全校生徒の目の前で日頃言えないことを主張するなど、恥ずかしくてできるわけもなく、企画自体が潰れる。今回もそうなるだろうと、気持ちはすでに運営会議後の部活動に向いていた。グラウンドを駆けるサッカー部を遠くに見ながら耳を傾けていると、ん?何かおかしい。あれやこれやと話が進み、いつの間にかやる方向で話がまとまっていた。敏腕運営委員長、八神くんの然らしめるところであった。
文化祭当日の流れはこうだ。滞りなくすべてのプログラムを終え、後夜祭。運営委員会設置の箱にクラスと氏名、主張したい内容をざっくり書いた用紙を投函した者の中から事前に選ばれた主張者が、名前を呼ばれた順に屋上へあがる。もちろん、終盤に向けて盛り上がるよう、運営委員会は裏で手を回し、名前を呼ぶ順番を決めていた。最後の主張は片思いの相手への告白になるのが、オリジナル通りのお決まりパターン。よくできたシナリオだ。
後夜祭。全校生徒がグラウンドに集合し、主張者と運営委員三役、そして私を含む一部の運営委員が補佐のために屋上にあがっていた。建築中の新校舎の脇にあるプレハブ校舎。先刻屋上と言ったが、正しくは金属屋根の上に直に立っている状況だ。グラウンドとの高低差は6メートルほどで、投光器に照らされた全員の顔をはっきり見ることができた。
「続きまして――」
運営委員長の進行で主張と笑い、拍手喝采が幾度か繰り返され、最後の“告白”がきた。名前を呼ばれた男子生徒が前に出て、マイク片手に女生徒を名指すると、全員の視線を浴びた彼女の頬がポッと赤く染まる。親友だった。マジか。後輩から告白されるとか、マジか。彼の告白に対する彼女の答えは“Yes”だった。
「おぉーー!」
「おめでとーーー!」
全校生徒からの祝福を受け、先輩後輩カップルが誕生した。「未成年の主張」も無事終わろうとしていた時、ちょっとちょっとと手招きする、運営委員長八神くんの姿が目に入った。
「なに?」
「実は皆さんに、もう少しお付き合いいただきたいのです!未成年の主張!」
「――ッ!」
後退り、その場から逃げようとした私の腕をむんずと掴むのは、同じクラスの運営委員の女子だった。マイクを向けられているため悪態もつけぬまま、群衆の視線にさらされる。
「俺には好きな人がいます!」
「おぉぉぉ!だーれー!」
「同じ運営委員会で、今ここに立っている……3年4組の……●●●●さんです!
ずっと前から好きでした。俺と付き合って下さい!!」
恥ずかしさで死にそうだった。手を触れなくてもわかる頬の熱、全力疾走した後のように飛び跳ねる心臓。別に彼のことは嫌いではなかった。いや、むしろ……好き……だった。だが、勉強も運動もできる彼に好意を抱く女子が多ことは知っていたし、私など眼中にないと思って最初からあきらめていたのだ。まさかの告白に声が出ず、それでも息を詰まらせながら、ようやく紡いだ言葉――。
「――はい」
「おぉーーーーー!」
文化祭は大成功に終わり運営委員会は解散した。八神くんとは晴れて彼氏彼女になったが、お互い高校3年生ということもあり、大学進学で離れてしまうことはなんとなく覚悟していた。地元の大学に進学した彼と上京した私。結局のところ1年半くらい付き合って別れてしまった。けれど、あの時のドキドキは、今もふとした時に思い出される――。
あのテープはどこ?
誰にでも思い出しただけで、恥ずかしい恋があると思う。私の場合は、中学時代の初恋だ。
普通、男子は男子でグループを作るのが普通らしいが、私が所属していた2年B組は、男女の仲が良く男女混合の仲良しグループが多かった。
私もそんなグループの1つに参加していた。恋のきっかけは、確か学校主催の安達太良山への旅行だったと思う。
この旅行では、各クラスが趣向を凝らして他のクラスの前で余興を見せる事になっていた。イベント大好きなうちのクラスは、寸劇をする事になった。
クラス委員みずから書き下ろした台本で、帰宅時間ぎりぎりまでの一生懸命練習したものだ。
ちなみに私の役どころは、悪代官!その時の私のパートナーの町娘Aが、初恋のIちゃんでした。毎日、二人で遅くまで練習し、本番は、しっかりと笑いを取って大成功。
二人で大満足のVサイン!!その時、あれこの子可愛いんじゃない?と思ってしまったのが運の尽き。クラスの仲良しグループで一緒だった事もあって、何かと目で彼女を追うようになってしまった。
なにぶん、初めての事で何をしてよいか分からず、日に日に大きくなる気持ちをただただぶつけて楽になりたいと、告白を決意!!
近々やってくる彼女の誕生日をXデーと決めプレゼント作りを始めました。
そこで私は、最悪のチョイスをしてしまう。初めての恋に酔っていた私は、あろう事か当時聞いていた甘い恋の曲をカセットテープにダビング!!
告白と一緒に渡すという愚行を犯してしまった。告白の結果は、もちろんバツ。その時のカセットテープはどうなったのかは、もちろん、今現在もわからない。
恋は下心
「恋」という字は、下に「心」という字があるので「下心」
そんな言葉を聞いたことがありませんか?
高校2年生の夏。あと2週間もすれば夏休みが始まる時期でした。
僕の通っていた学校は、共学とは名ばかりの工業高校。全校生徒の中に女子はたった6名同学年に至っては3名。ちなみに僕のクラスには女子はいませんでした。
ほとんど「男子校」のわがクラスは、毎日グラビアアイドルの話や他校の女子に対する「妄想合戦」
いやらしいことを考えて、ゲラゲラ笑いながら毎日を過ごしていました。
もちろん僕もその中の一人。
しかし、まわりの友達と僕が違っていたのは、僕だけ校内の女子に恋心を抱いていたこと。
なぜ「僕だけ」かというと、在校生の女子は皆ビジュアル的にかなり問題があり、男子生徒は皆「うちはブスばっかりだぜ」と見向きもしなかったのです。
確かに問題はありました。お世辞にも「可愛い」とは言えず、中には男子と区別のつかない女子も・・・。
そんなわが校の女子の一人に、なぜ僕が着目したのかというと、僕は極度の「デブ専」だったからです。
「吸い込まれるような大きな瞳」「すらっと伸びた綺麗な脚」「あどけなさ」
全く興味がありませんでした。
「あるかないかわからないぐらいの小さな眼」「凹凸の無い太い脚」「見た目おばさん」これが堪らなかったのです。
隣のクラスの、名前は「林 久美子」さんとしておきます。
林さんはまさに「デブ」そのもの。明るい性格ではあり、友達は多そうで、実際男子のグループの中にいて、それなりの人気者でした。
僕は友達に「趣味」を打ち明けることも出来ず、林さんを「想像」しながら毎日悶々とした日々を送っていました。
そんな夏のある日、僕に絶好の転機がやってきたのです!
林さんの家は、電車では反対方向。クラスも違うので、学校から駅への道でたまに会う程度でしたが、その日は珍しく校門でばたりと出会い、二人きりで駅へと向かうことが出来たのです。
以前から、複数で駅まで向かいながら談笑することはありましたが、二人きりは初めてで、緊張であまり話をこちらから振ることもできず、いつの間にか駅に着いていました。
駅に着くと、突然林さんが「このあと、どっか出掛けるの?バイトとか?」と聞いてきたのです。
予定はもちろんありませんでしたので「何にもないけど、なんで?」僕が聞き返すと。
「私、お腹すいちゃって・・・良かったらご飯食べに行かない?バイト代入ったから奢るよ!」
絶好のチャンスです。初回の「単独接近遭遇」にて、まさかの「臨戦態勢」。
断る理由など何処にもなく、僕は首が千切れんほど頷きました。
場所は学校の最寄から5駅ほど、飲食店街がある駅。夕方のラッシュ時間帯で僕らの乗る電車は満員すし詰め状態。そこにきて同乗は林さん。
僕と林さんは寄り添うように乗り込み、流れの中でぴったり密着した向かい合わせで電車の中に。
田舎の電車なので、ひと区間が非常に長いうえに空調も効いておらず、むせ返るような車内。
本来であれば苦痛極まりないのですが、今回ばかりは「天国」です。
林さんの「柔らかい部分」のすべてが僕の身体前面に密着し、顔は横に背けなければくっついてしまいそうな距離。突然にしてこの上ない出来事に、かなり興奮していたことを覚えています。
「暑いね」僕の目を見る林さん。目を合わせられずに上を見ながら「そうだね」と僕。
ひと駅分の沈黙の後、僕は僕自身の変化に気づいてしまいました。
ほぼ初めてといえる「女性との密着」。しかも「どストライクに好み」となれば、「僕自身」が黙っていられなくなってきたのです。
林さんに気付かれまいと、身体をよじるほど密着度は高まり「僕自身」の緊張度は増します。
3駅目に着くころには完全に「僕自身」が林さんの下腹部にほぼ突き刺さらんばかり、否、もうほぼ当たってしまっていました。
ちょうどそのタイミングで、林さんが僕の顔を凝視したのです。
「ばれた」そう思いました。
すると林さんは「は、鼻血出てるよ!」
あろうことか、興奮のあまり鼻血まで出ていたのです。
ギュウギュウ詰めの中、林さんはポケットからハンカチを取り出して、僕の鼻に宛がってくれました。
柔軟剤の良いにおいを今でも覚えています。
林さんは「次の駅で一旦降りよう。一度落ち着いた方が良いよ」
林さんは優しく言ってくれましたが、問題は鼻血なんかではありません。
「僕自身」です。
見た目はどうでも、好きな女性と密着し、鼻まで拭いてもらって、治まる訳なんかありません。
止まらない鼻血、治まらない「僕」。混乱のまま駅に着きました。
雪崩のように降車する人の波で、顔にはハンカチ、おまけに前かがみの僕はバランスを崩して、ものの見事にホームに倒れました。
右手にハンカチ、左手に学生カバン。倒れた僕に「僕自身」を隠す術は残っていませんでした。
人の波は過ぎ、僕を、いや「僕自身」を見下ろす林さん。照れなのか怒りなのか、顔は真っ赤でした。そのことだけしか確認できないぐらい、林さんは足早に僕のもとから去っていきました。
僕はそのまま駅のトイレへ行き、顔を洗う頃には「僕自身」もすっかり意気消沈していました。
翌日以降、林さんとは目が合うこともなく、卒業まで一言も会話をすることはありませんでした。
若さゆえに「いかがわしい」事ばかり考えて、せっかく好きな女の子と近づくチャンスを「下心」で台無しにしてしまったという、今では懐かしい思い出です。